昨今の「FIRE」ムーブメントの行く末が心配です

2021/03/14

投資


 「FIRE」(Financial Independence, Retire Early、ファイナンシャル・インディペンデンス・リタイア・アーリー)とは、北米の若者たち、いわゆるミレニアル世代を中心に大きなムーブメントになりつつある動きですが、文字どおり、「経済的な自由を獲得して、早期リタイアを達成し、自由に生きよう」という思想とその実行です。

 「FIRE」については、日本でも、様々なメディアやテレビ番組で特集が組まれ始めており、コロナショック後の金融緩和による株式市場のV字回復とその後の株高にも後押しされ、一般にも注目され、ちょっとしたムーブメントになりつつあります。


「FIRE」関連本として有名な3冊

「FIRE 最速で経済的自立を実現する方法」グラント・サバティエ 著

 いわゆるサバティエの黄色い本で、著者のグラント・サバティエさんは、徹底的な節約・副業・投資の実行で30歳でFIREを達成したアメリカ人男性ですね。この本は、近所の書店ではあまり見かけません。


「FIRE 最強の早期リタイア術 最速でお金から自由になれる究極メソッド」クリスティー・シェン&ブライス・リャン 著

 書店で最もよく見かける本で、著者のクリスティー・シェンさんはカナダ人女性で、ブライス・リャンさんはそのパートナーです。徹底した節約、4%ルールの実行によるFIREの具体的な提案が詳しく解説されています。


「本気でFIREをめざす人のための資産形成入門」穂高唯希 著

 そして、日本の有名投資ブロガーの三菱サラリーマンさんの著作です。お名前の通りの高い属性を生かし、支出の最適化(徹底した節約・倹約)を図りつつ、収入の8割を投資に充てることで、極めて短期間かつ若くしてFIREを達成されています。


「FIRE」実行のための絶対条件

 「FIRE」実行のための絶対条件は、何と言っても「経済的な自由」の獲得ですから、当然ながら、「投資」と切っても切れない、非常に「投資」と相性が良い思想です。

 「経済的な自由」の定義にこれという絶対的なものはないようですが、株式や不動産などによる配当金や家賃収入といった「不労所得」を生み出す資産が、必要生活費の25倍あれば「FIRE」可能と考えられているようです。

 要は、必要生活費を最小化すれば、例えば、極端な話、年間120万円で暮らせるならば、約3,800万円分の年利回り4%期待の資産があれば、20%の税引き後の手取りでも約120万円の不労所得となり、「FI」達成というわけです。

 しかし、これだとあまりにも不安定ですので、多くの方は「億」を目標にしたり、リタイアではなく、セミリタイア(サイドFIRE)を目指しているようです。

 現在の投資ブロガー界でも、投資の目標に「FIRE」を掲げるサイトが非常に多く見受けられます。

 現在、コロナ禍による社会の閉塞感や、ストレスフルな近年の就業環境などから、社会に辟易した若者たちが、「FIRE」を達成して、自由に生きたいと夢見ることは、当然の方向性だと思います。


 私も、あと20歳若かったら、早期退職は別として、「経済的な独立」は、目指していたと思いますもの。

 本多静六先生も、著作「私の財産告白」の中で、「経済的自由を得て、仕事を道楽とする」ことの有効性を説いていらっしゃいますし。


「FIRE」ムーブメントの行く末に対する不安

 ただ、老婆心(老爺心)ながら、昨今の「FIRE」ムーブメントの行く末が心配です。


 と言うのも、自身の「FIRE」に向けた取り組みを発信する方々と、人気テレビ番組「人生の楽園」に、何だか同じ香りを感じてしまうのです。

 テレビ番組「人生の楽園」は、早期リタイア者(多くの方は50~60代)が、新天地に移住して、「カフェ」や「蕎麦屋」の開業、「農業」などへの新規就業を通じて、第二の人生を謳歌する姿を紹介する番組です。

 番組自体は、「主人公」が、移住先の親切な地元の方々に助けられつつ、幸せに暮らしている日常を映し出す非常にハートフルなものです。

 ですが、私は、この番組を目にするたびに「罪作りな番組だな」と感じてしまうのです。

 この番組の「主人公」たちは、言わば、第二の人生に成功した方々です。しかし、その陰には、第二の人生に失敗した方も少なからずいらっしゃるはずなのです。

 この番組を見て、第二の人生に夢を見るのは良いことですが、この番組に触発されて、配偶者や家族の了解を得ないままの早期退職や、無謀な移住計画、脱サラ、退職金をつぎ込んだ第二の人生など、暴走する方がいらっしゃるようなのです。まぁ、全て自己責任と言われればそれまでなのですが。


 「FIRE」にも、同じことが言えまして、多くの方は「成功例」しか見えていません。いわゆる「成功者バイアス」です。

 中には、無謀な計画のまま、その「成功例」を追ってしまう方も、世の中には一定数いらっしゃるはずなのです。

 特に、この1年ほどの株式や暗号資産などのリスク資産は、異常とも言えるほどの右肩上がりの好相場ですから、高いリスクをとった方ほど、大きなリターンを得ることができているはずです。

 しかし、長い人生の中で、このような好相場が永続するはずはなく、今の好相場を前提とした「FIRE」は、早々に破綻しかねません。

 また、「FIRE」を目指した際の、仕事に対するモチベーションの低下も心配なところですね。


 さらに、不安なのが、仮に「FIRE」ムーブメントが本格化すれば、将来的な未婚率の更なる増加と、それに伴う少子化を加速しかねないことです。

 ただでさえ、今どきの若者の一部には、「結婚と子供はコスパ最悪」と考える方が見受けられます。

 「FIRE」達成のためには、支出を最小にまで絞るのが、最も早道ですので、結婚と子供は、FIRE達成の重荷に感じてしまいかねないのです。

 また、株式や債券等のペーパーアセットだけで、十分に余裕を持った「FIRE」を迎えるには、相当な資産額が要求されるので、普通はかなりの時間、それこそ20年以上は必要なはずです。

 そこを短期間にクリアするために、融資を受け、不動産等のハードアセットへの資産分散を図り、安定したキャッシュフローを得ている方などは、見ていて安定感があるのですが、そのためには相当の見識や専門知識、大きな手間と努力が要求されます。

 その一方で、やはり、心配なのは、流行りの個別銘柄やレバレッジETF、ビットコイン等への集中投資を行った結果、最近の高相場の波に一気に乗って一財を成し、FIREを目指している方のケースです。

 一気に財を成した方は、一気に転落することも多いというのは、世の常です。

 安易に早期リタイアをしてしまって、人生を棒に振ってしまうような方が増えないことを切に祈っています。

 

プロフィール

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3匹の猫にお仕えする猫下僕です。 息子の子育てが一段落し、教育費用(大学進学費)のめどが立ち、ようやく自分らの老後の準備を本格化せてています。

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